2008/05/19

マニラのアートスペース・ガイド

 今回本文は後述です。マニラの主要なアートスペースを紹介します。マニラ首都圏、北から順番に。

○ケソン市

●mag:net Cafe


 まずは何と言っても、今マニラで最も重要なアートスペースと言っても過言ではない「マグ:ネット・カフェ」。アテネオ・デ・マニラ大学の門前にあるカティプナン店(2006年オープン)を中心に、新興のグローバル・シティやマカティにも支店を構える。もともとアート系雑誌のネットワークを企画し、マガジン・ネット=マグ:ネットとして始まった。ギャラリーにカフェを併設したのが成功し、現在では毎日のようにライブ(ロック、エスニック、レゲエ、ジャズ)があり、毎週火曜日はシネ・カティプナンと称して、芸術的・実験的な映画の上映がある。現代美術の分野では今やある意味で若手作家の登竜門とも言え、毎月1人のペースで個展を中心に展覧会が行われている。フィリピンでは珍しく1年先まで予定が決まっている超人気のスペースだ。書店も併設していてアート関係の本・雑誌、地元ミュージシャンの音楽CDや名作映画のDVDが購入できる。WEBサイトも充実していて、最近数年の展覧会についてはデータベースが公開されていて、現代美術作家の情報が得られる。申し込めば定期的にEmailニュースも送ってくれる。オーナーの一人であり1970年代から活躍する画家のロック・ドリロン氏は、次はやはりアート・マガジンの発行をと意気込んでいる。

Address: AGCOR Building. 335 Katipunan Avenue, Quezon City
Tel/Fax: +63-2-929-3191/+63-921-6681279
Email: magnetcafegroup@gmail.com
WEB: http://www.magnet.com.ph

●Green Papaya Art Projects

 2000年にオープンしたがいまや老舗とも言えるアートスペース。『アジアのアートスペースガイド2005』でも紹介されている。パナイ島出身のインスタレーション作家ピーウィー・ロルダンと、このブログでも紹介した新進気鋭のダンサー、ドナ・ミランダが運営している。美術、映像、ダンスなど境界を超えたコラボレーションが真骨頂。滞在設備も備えており訪れる外国人アーティストも多い。


Address: 12 A Maginhawa St. UP Village, Diliman, Quezon City
Tel: +63-926-6635606
Email: info@greenpapaya.org
WEB: http://papayapost.blogspot.com

●アテネオ・アート・ギャラリー

 イエズス会系私立名門のアテネオ・デ・マニラ大学の構内にあるギャラリー。近代絵画のコレクションが有名だが、現代美術の企画展も多く、海外の研究者・キュレーターとの対話事業も盛ん。2006年から始まった「アテネオ・アート・アワード」は、既に現代美術では国内で最も“権威”あるコンペティションに成長した。優勝者はシドニーで滞在制作ができる。


Address: Ground Floor, Rizal Library, Ateneo de Manila University, Katipunan Avenue, Loyola Heights, Quezon City
Tel: +63-2-426-6001 local 4160
WEB: http://gallery.ateneo.edu/

●Lingoren Gallery

 1960年代以降の社会派リアリズムの作家(アンティパス・デロターボやレナト・ハブランなど)を扱う異色のギャラリー。展覧会も社会的硬派なテーマが多い。ギャラリーのオーナーはアルフレド・リンゴレン(抽象画)、子息はエリック・リンゴレン(写真)でともに著名なアーティスト。

Address: 111 New York / Stanford Str., Cubao, Quezon City
Tel: +63-2-439-3962
Fax: +63-2-912-4319

○マンダルーヨン市/パシッグ市

●SM Megamall Art Walk

 マニラ首都圏のショッピングモールの中で最もギャラリーが集中する。合計19のギャラリーと企画展を実施するアートセンターがある。ギャラリーの中では「FINALE」が2000年のスタート時から続くパイオニアで、現代美術作家の展覧会が多い。また「West Gallery」や「THE CRUCIBLE」も現代美術が中心。「OLD MANILA」は美術関連の古書が豊富。いつ行っても何かしらの展覧会が行われている。

Address: 4th level, SM Megamall, Mandaluyong City


●ロペス美術館

 国内有数の華人系財閥が経営するロペス財団の美術館。近代美術のコレクションで有名。現代美術の企画展も積極的に展開している。

Address: G/F Benpres Building, Exchange Road corner Meralco Avenue, Ortigas Center, Pasig City
Tel: +63-2-631-2417
Email: pezseum@skyinet.net
WEB: http://www.lopezmuseum.org.ph/

○グローバル・シティ(タギグ市)

●MO_SPACE

 マニラ首都圏で今最もホットなスポットに2007年にできたばかりのアートスペース。小さいスペースだが、通常は現在注目されている現代美術作家のコレクションをコンパクトに展示しており、フィリピン現代美術作家の概観ができる。定期的に企画展も開催。

Address: 3rd level, Mos Design, Bonifacio High Street, Bonifacio Global City, Taguig City
Tel: +632 8562745
Fax: +632 8562745
Email: mo.space@yahoo.com.ph

●High Street(野外)

 国内随一のスペイン系財閥であるアヤラ・グループが開発した新都市の中心部にできたショッピングモール。元米軍基地の跡地に高級ショッピングモールの他、マンション、病院、インターナショナルスクールなどが忽然と現れ、この周辺だけで商業ギャラリーが10ヶ所近く新たにオープンした。現代のフィリピンの富の象徴。アートに触れる街つくりを目指していて、美しい街路と芝生の各所に若手作家によるパブリック・アートやインスタレーションが設置されている。


Address: Bonifacio High Street, Bonifacio Global City, Taguig City

○マカティ市

●THE DRAWING ROOM GALLERY

 国内の旬の作家を含む良質のドローウィングを扱うギャラリー。2ヶ月に1回のペースで個展を中心に展覧会も実施している。


Address: 1007 Metropolitan Avenue, Metrostar Building, Makati City
Tel: +63-2-897-7877
Fax: +63-2 -890-7455
Email: drawings@pldtdsl.net
WEB: http://www.drawingroomgallery.com/public.concv/8

●Silverlens Gallery

 現代写真を中心に現在活躍目覚しいギャラリー。シルバーレンズ財団では新進作家の作品を購入してグラントを提供している。またアジア・カルチュラル・カウンシルがスポンサーとなって、米国やアジア諸国での研究スカラシップも提供している。


Address: 2320 Pasong Tamo Extention, Warehouse 2, Yupangco Building, Makati City
Tel: +63-2-816-0044
Email: manage@silverlensphoto.com
WEB: http://www.silverlensphoto.com/#

●アヤラ博物館

 フィリピン最大のアヤラ財閥系の財団が経営する民間博物館。首都圏マカティ市の中心を占めるきらびやかなショッピングモール街の一角にあって、国際的スタンダードを備えた展示スペースを擁し、フィリピンの美術界をリードしている。2008年の5月には新たに常設展示室を改修オープンして、16世紀植民地時代以前にさかのぼる、1000点を超える金の装飾品のコレクションを一挙に公開した。かつて金の産地として名を馳せたフィリピンだが、ミンダナオやパラワン島など、今は発展に取り残された地域で発見された金の装飾品からは、インド文化や近隣諸国の影響が見て取れるが、その精巧な技術には全く圧倒される。近代美術や現代美術の企画展、海外作品の展示なども活発。

Address: Makati Avenue cor. De La Rosa Street, Makati City
Tel: +63-2-757-7117 to 21 local 10 and 35
Email: museum_inquiry@ayalamuseum.org
WEB: http://www.ayalamuseum.org/

○パサイ市

●Galleria DUEMILA


 マニラで最も老舗のギャラリーの一つ。1975年にイタリア人オーナーのシルバナ氏によってオープン。コレクションも充実しており、絵画の修復なども手がける。WEBサイト内の作家の公開資料も豊富。

Address: 210 Loring Street,1300 Pasay City
Tel: + 63-2-831-9990 or 833-9815
Fax: +63-2-833-9815
Email: duemila@mydestiny.net
WEB: http://www.galleriaduemila.com/

●Cultural Center of the Philippines(CCP)
 
 フィリピン文化センターの美術部門として、1960年代~80年代名作のコレクションが有名。大(440平米)・中・小のギャラリーなど6ヶ所の展示スペースがあり、個展・グループ展が頻繁に開催されている。


Address: Roxas Boulevard, Pasay City
Tel: + 63-2-832-1125 loc. 1505 to 1506
WEB: http://www.culturalcenter.gov.ph/

○マニラ市

●HIRAYA GALLERY

 ここも1980年オープンの老舗画廊。ガブリエル・バラド、ホセ・レガスピなど数多くの作家がこの画廊から巣立っている。1980年代の作家から現代作家までコレクションも豊富で画廊2階の倉庫を観るのも楽しい。オーナーのディディ・ディーのネットワークは豊富である。ここもWEBサイトの作家情報が充実している。

Address: 530 United Nations Avenue, Ermita, Manila City
Tel・Fax: + 63-2-523-3331
Email: hiraya@info.com.ph
WEB: http://www.hiraya.com/home.asp

●Museum of Contemporary Art and Design, SDA

 アテネオと並び称される名門私立大学のデザイン芸術学部の付属施設として2008年2月にオープンしたばかりのギャラリー。マニラ市内に斬新なデザインの建築が威容を誇る。同学部、劇場、映画館など全体で14階建ての55000平米。ギャラリーは美術、デザイン、建築、映像、パフォーマンスなどジャンルを超えた企画展を随時公募している。


Address: The De La Salle-College of Saint Benilde (DLS-CSB) School of Design and Arts Building (SDA Building), 950 P. Ocampo Street, Malate, Manila City
Tel・Fax: + 63-2-536-6752 local 135 to 138
Email: sda@dls-csb.edu.ph
WEB: http://www.dls-csb.edu.ph

●国立博物館(ナショナルギャラリー)

 2007年に念願のナショナルギャラリーがオープンして、19世紀後半アジア美術の最大の傑作の一つとも言える『スポリアリウム(虐殺)』をはじめ、近代の名作を一般公開するようになった。別館では企画展も多く実施されており、この6月には国際交流基金との共催で日比現代写真展が開催される予定。

Address: P. Burgos Street, Manila City
Tel: + 63-2-527-1215
Fax: + 63-2-527-0306
Email: nmuseum@i-next.net
WEB: http://members.tripod.com/philmuseum/index



(本文)
 セブで開かれた第二回東アジア諸国首脳会議に出席する途上、マニラを訪れた時の安倍首相と懇談する機会があったのが2007年1月のこと。安全保障や憲法問題など果敢な政策を積極的に掲げ、首相官邸機能の強化をなかば強引に進めた結果、各方面にフリクションを起こしてバッシングを受ける状況に陥り、その政権を放棄してしまったのが9月。様々な政策が中途半端な状態に投げ出されたままだが、私たちの仕事の関係で唯一、安部政権の政策の果実からの恩恵を受けているものがある。東アジア青少年交流拡大計画。通称JENESYS(ジェネシス)と言われ、アセアンや中国、韓国、それにインドや大洋州の国々を含め、今後5年間、毎年6000人の青少年の交流を行おうという壮大な計画で、予算は総額350億円。フィリピンからも毎年200人の高校生と大学生が10日間の日本研修旅行を与えられることになった。

 国際交流基金でも、このジェネシスの枠組みで日本語教師を日本から派遣したり、逆にアジア諸国から日本語教師や学生を日本へ研修に招待したり、前回のブログで紹介したようなスタディーツアーを実施するなど、その企画・運営にあたっていて、マニラ事務所だけでも年間26人程度の交流事業を新たに実施することとなった。芸術交流の分野でも、年間2名の「クリエーター」を日本へ招待することとなり、今年の第一期生として、ビジュアル・アーティストのゲーリー・ロス・パストラナと、UPの学生で能楽の大鼓を学ぶダニエル・ナオミ・ウイが選ばれた。

 ゲーリーは1977年生まれの期待のインスタレーション作家。近代美術の黎明期に活躍した作家たちに与えられたグループ名“サーティーン・モダーンズ”にちなみ、3年おきに優れた現代美術の作家に与えられる「CCPサーティーン・アーティスト」賞に、2006年に選ばれている。1枚1枚破った辞書をくしゃくしゃに丸めて落ち葉のように見せかけた作品や、ハイソの集まる高級ショッピングモールの一画に穀物の種などを使って曼荼羅を描くなど、日常的にありふれたものを使って新たな文脈を生む作品を作り続けている。今回日本で新たに取り組む作品は、漁村に放置された古い小船を分解して韓国に運び、そこで新たな文脈のもとに組み立て直すというプラン。日本と韓国との間に横たわる海峡を、東南アジアのアーティストが取り持つというとっても素敵なアイディアだ。

       既に鳥の餌場となっている芝生の上の曼荼羅

 日本での滞在制作は、京都アートセンターと京都アエロポートが受け入れる。京都アートセンターは、京都市内にある廃校となった小学校を改造した滞在型アートスペースで、京都アエロポートは、稲次義明氏という映像作家が作った新しい滞在制作拠点である。今回はその稲次氏がまずフィリピンを訪れたことからこのプロジェクトは始まったのだが、フィリピン人アーティストとのコラボレーションへの意気込みに共感し、私たちも協力することにした。ゲーリーは作家以外にも、キュレーターやプロデューサーとしての経験もあり、現在は閉鎖となってしまった「Future Prospect」というアートスペースも運営していた経験の持ち主で、フィリピンと日本の現代アート交流の展開にとっても期待の人材である。

 ところで、稲次氏とフィリピンとを結びつけた1冊の本がある。アジア16カ国のオルタナティヴなスペースを中心に紹介した『オルタナティヴス アジアのアートスペースガイド2005』というガイドブックで、2004年に国際交流基金が出版した。実は稲次氏に会う以前にも、ある日本人からこの本を頼りにマニラのアートスペースを訪れたという話を聞いたことがある。もちろん何人もいるわけではないけれど、地元の人だって知る人の少ないマニラの町の一画にあるちっぽけなオルタナティブ・スペースに、わざわざ日本からその本を携えてやって来る人たちがいる。こうして情報を公開することが、貴重な点と点とを結びつける見えない糸を紡いでいるのだということがわかると、こういう仕事をしていて嬉しく思えてくる。

 さてそのマニラのアートスペースについて。商業的なギャラリーでなければその存在基盤はとても脆く、変化の激しい世界である。『アジアのアートスペースガイド2005』についても既に情報が古くなりつつある。また昨今のアートマーケットの加熱で、市内各所に新たなスペースも続々とできているので、この機会に重要なスペースを紹介しておく。

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