今フィリピンのファッションデザイナーたちが日本に熱い視線を注いでいる。一方、日本のファッション業界でもこの国の若い才能を”発見”しつつある。先ごろ東京で開催された「第47回全国ファッションデザインコンテスト」(財団法人ドレスメーカー服飾教育振興会、学校法人杉野学園主催)で、比人デザイナーのヴィージェー・フロレスカ氏が、準グランプリに相当する「繊研新聞社賞」を受賞した。
1963年以来続いている伝統のあるコンテストとして日本ではデザイナーの登竜門で、審査員にも森英恵など著名人が多い。応募者も多く、今回も日本を中心に中国、ロシア、インド、シンガポールなど世界中から2534点の応募があった。
そんな激戦のコンテストに、比からヴィージェーを含む38人もの若者が挑戦し、デザイン画審査の結果3人(全体で70人)が最終選考会に進んで東京に乗り込んだ。「ピノイ・ロボット」とタイトルされた彼の作品は、ロボットのようなシルエットだが、ピーニャなど比の伝統的素材を使用し、比独自の刺繍を一面に施した。日比文化のブレンドをコンセプトに、強く主張しながらも、細部にこだわった繊細さが評価されたという。
日本のポップカルチャー人気を受けてコスプレが世界中を席捲。比においても例外ではなく、コスプレ大会ではアニメから飛び出したようなロリータファッションが人気だ。渋谷や原宿を発信地とするストリート系ファッションもメディアでたびたび紹介されていて、この国の若者文化にも大きな影響を与えている。しかしハイセンスなアート系ファッションとなると、比人デザイナーの目はまだまだパリやニューヨークに注がれていて、日本の影響は限定的。日比の交流は驚くほど少なく、日本で紹介される比人デザイナーなどこれまでほとんどいなかった。
3年前、国際交流基金では比を含むアジア5カ国から将来期待されるファッションデザイナーを日本へ招待し、ハイライトとして「アジア5」と題したファッションショーを、若手デザイナー養成でリードする杉野学園ドレスメーカー学院と共催した。比からは当時フィリピンファッション協会を率いていたジョジー・リョーレン氏を派遣。彼の業界での影響力に期待しての選抜だったが、それが的中。その後若手デザイナーが続々とその杉野学園が主催する冒頭のコンテストに挑戦するようになった。
一昨年まず最初に挑戦したのはジェローム・ロリーコ氏(25才)。当センターも制作費を支援したが、見事に審査員賞を受賞。東南アジアから初参加で初受賞だった。日本のアニメに強く影響を受けたというジェロームの作品は、近未来的なメカニックな要素が基調だが、どこか熱帯的でおおらかな生命力を感じさせる作品だった。受賞後の彼の活躍は目覚しく、比国内のメジャーなファッションショーでも確実に彼自身のブランド名を浸透させつつある。
そして今回のヴィージェーの受賞で、比人デザイナーは2戦2勝。本紙でも紹介したことがあるが、コンテンポラリーダンスの世界でも、比人ダンサーが日本の新人登竜門のコンテストに参戦し始めて2戦2勝の負けなし。創造性が試される最先端の現代文化の分野では、フィリピン人アーティストは日本人と十分互角に戦えるという一つの証だろう。
ヴィージェーは3年前にデ・ラ・サール大学のファッション学科を卒業したばかりの24才。比のファッション業界はいま急成長していて、経済的バックグランドのない若手たちにもチャンスがあるという。比国内に現在コンテストがないため、そんな若手デザイナーにとって、日本のそれは大きな目標の一つになりつつある。初めての日本滞在で渋谷、新宿、銀座、池袋などを訪れ、それぞれの街の持つ雰囲気とファッションの魅力を堪能した。これからはもっと若い世代のアーティストの卵たちの交流が必要だと、期待に胸をふくらませていた。
この記事は『まにら新聞』にも掲載しました。
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