さて今回の長編コンペ作品については、受賞結果が示している通りかなり評価が割れたようだ。以下が主な賞と作品内容。
○作品賞:最後の晩餐ナンバー3
実話に基づいたコメディー映画。テレビコマーシャルの撮影のために一般市民から「最後の晩餐」の壁掛けをいくつか借用したが、ナンバー3を紛失。その賠償をめぐって貸し手と借り手との間で繰り広げられるドタバタ喜劇。失くした主人公は美術担当のおかまちゃん、とコメディーの王道。
○審査員特別賞:ColorumとPanggagahasa Kay Fe
Colorumは、ひょんな人身事故がきっかけで一緒に旅をすることになった警察官とおじいちゃんのロードムービー。おじいちゃん役の役者はこれで主演男優賞も獲得。
Panggagahasa Kay Fe(フェの恍惚)は、果物を差し出す精霊をモチーフにしたホラー。夫婦の不倫関係を軸に、妻のフェがいつしかその精霊に魂を奪われてしまう。
○女優賞:Sanglaan(質屋)のIna Feleo
タイトル通り、マニラの下町トンドの質屋を舞台にした人間模様。
○脚本賞: Nerseri(苗床)
精神分裂病の兄二人と姉一人を持つ男の子の物語。
○デザイン賞:Mangatyanan
近親相姦のつらい過去を抱える若き女性写真が、ルソン島北部の村で行われる儀式(Mangatyanan)の撮影旅行を通じて、過去を正視して乗り越えてゆこうというお話。
○オリジナル作曲賞とオーディエンスチョイス:Dinig Sana Kita
親に反抗するロック好きの女の子が、バギオに研修に送られ、そこで聴覚障害者と出会い、立ち直ってゆくという話。
前回紹介した「Engkwentro」以外には、“すごい!“と思う作品は無かったが(ちなみに「Engkwentro」は主要な賞を逃したが)、どれも粒ぞろいで秀作だ。個人的には質屋を舞台にした「Sanglaan」が、米国への移住問題、遠洋航海のフィリピン人船員の雇用や臓器売買など、フィリピンならではのストーリーが満載で、かつほのぼのとした路線で好感が持てた。
今回のシネマラヤで重要なことは、以前はほとんど海外の映画関係者から無視されていたのが(フランスは毎年カンヌのディレクターが見に来ていたが)、このブログでも紹介したメンドーサ監督のカンヌ受賞で、海外映画祭のディレクターなど関係者がたくさん訪れたということだろう。“メンドーサ効果”が早くも現れた。
そして日本からはいよいよ東京国際映画祭「アジアの風」プログラミング・ディレクターの石坂健治氏がやって来た。旧知の間柄ゆえざっくばらんに色々意見交換したが、お世辞ではなく、今のフィリピンのDシネの盛り上がりにはいたく感激したようで、10月に予定される本選へはフィリピンから1本、2本エントリーされてもおかしくない、と期待を持たせるご発言があった(ご本人承諾の上、証拠写真入りで公開しちゃいます)。乞うご期待です。
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