2010/02/09

平和構築をモスレム女性たちの手で

 紛争が泥沼化しているミンダナオのモスレム自治区を中心に、全国各地から150名を超えるモスレム女性リーダーたちが集まり、平和構築に向かって行動することを高らかに宣言した。

 「平和の灯火、女性たちの誓い」と題された国際会議が、1月24日から2日間ダバオで開催された。主催はマグバサキタ財団とイスラム民主主義フィリピン・カウンシル(PCID)。前者は、比史上でただ一人モスレム女性で上院議員となったサンタニーナ・ラスル氏が代表で、モスレム社会の識字教育の推進に尽力してきた。PCIDの創立者は娘のアミナ・ラスル氏で、イスラム社会で重要な役割を担うウラマー(男性知識人)の全国的組織を作り、イスラム教徒の声を糾合してきた。今回の会議では女性知識人(アラビア語で「アリーマ」)の組織化を目指し、海外からゲストを招いて初の全国大会となった。

 日本政府はミンダナオの復興と開発のために、日本・バンサモロ共同イニシアティブ(通称J-BIRD)などを通じて、教育、衛生、労働などのインフラ整備を重点的に支援しているが、私たち国際交流基金は、こうした文化交流や知的交流を通じた平和構築の活動を支援してゆきたいと考えている。

 ミンダナオの状況が一昨年の8月から悪化して以来、一時は50万人もの国内避難民が発生した。比政府と分離独立派の和平交渉はようやく再開されたが、今でもミンダナオ中西部を中心に難民キャンプがあり、恐怖心から自分たちの村に帰れない多くの女性や子供たちがいる。

 昨年11月にはマギンダナオ州で、今年5月に予定されている統一選挙のからみで対立する候補者による57人もの虐殺事件が起きた。犠牲者には多くの無抵抗な女性やジャーナリストが含まれていて、この不名誉な事件は一気に世界中に知れ渡った。現職の同州知事をはじめ、軍・警察や私兵を含む600人以上の男たちが書類送検されている。今回の会議には、逮捕された州知事の代行を務めるモスレム女性のナリマン・アンボルット氏も参加して、マギンダナオの復興を説いていたが、その弁舌には覇気はなく、彼女や同州の人々がこの事件のトラウマから快復するには相当な時間がかかるだるだろうと思われた。

 一昨年私が初めてマグバサキタ財団の事務所を訪れ、サンタニーナ元上院議員から話を聞いた時、「女性こそが平和への触媒たらんと立ち上がるべき時だ。家族の要である母親として、地域コミュニティーの中心として。大きな紛争の種は、多くの場合はコミュニティーという身近な世界で起きる争いや憎しみあいがほとんどだ。そこではモスレム女性としての知恵と慈愛が試される。男性に支配された暴力に彩られた歴史を今こそ変えなくてはならない。ミンダナオの平和構築を私たち女性の手で実現してゆきたい」と熱く語っていた。

 無論ミンダナオ紛争の根底には貧困、そしてキリスト教徒の支配する他の地域との格差という大きな社会問題が横たわる。教育の格差も深刻だ。2003年の統計によれば、モスレム自治区の識字率は比国内で最低の70%。他のミンダナオ地域の87%からもさらに離されている。

 今回の会議には、ジェンダー問題で国政をリードするピア・カエタノ上院議員や、女性政党ガブリエラの党首で下院議員(政党リスト制)のリザ・マサらも参加して、女性の社会進出について熱弁をふるった。ジェンダー問題の大物を二人も呼んでくるとは、さすがに政治力がある。海外からの参加者の中では、特に四千万人のモスレム会員を抱えるインドネシアの巨大組織、ナフダトール・ウラマーの女性支部代表も参加し、先行するモスレム女性組織の奮闘史を紹介した。

 今後はこのネットワークを通して、自分たちの地元で識字教育の改善や人材育成に取り組み、全国レベルで彼女たちの声をまとめて中央の政界や国際社会に訴えてゆく計画だ。今回の会議を企画したアミナ氏の夢はつきない。モスレム女性の声を届ける雑誌や、ゆくゆくはモスレム女性政党も作りたいと抱負を語る。産声をあげたばかりのモスレム女性たちの力で、ミンダナオの平和構築に新たな灯火がともされることを心から願っている。



 ほぼ同じ内容の記事を『まにら新聞』にも掲載しました。